お知らせ
米津ケアマネの『人生はドラマじゃない』 film.35「理想と現実の狭間で抗う生物たち」
2025.09.07
かつて映画監督を目指したケアマネジャー米津が、映画や音楽・小説などで表現されたものと現代社会の結びつきから、その課題を紐解きます。
兼ねてより、時代は「バーチャル家族」に傾くと思っていた
インターネットを介した仮想世界に存在する“理想の家族”
今や時代はそれを容易に形にしてしまう。VRゴーグルを装着すればゲームの世界に没入できるのと同じで、そこには思い描く“我が家”がある。ゆったりとした12畳の洋風リビングにふかふかのレザー調のソファセットに腰掛ける。目の前の壁に据えられた大型テレビで1970年代の古いアメリカ映画が映し出され、手元のテーブルではアメリカン珈琲がいつも温かい湯気を立ち昇らせている。緑の木々が生い茂る広い庭に面した窓からは、心地良い陽光が差し込み、時折、うつらうつらと眠りに誘われる。庭先では、愛犬のゴールデンレトリバーと遊びにやってきた娘と孫が楽しく駆け回り、キッチンからは妻が昼食の用意をする音と香りがほのかに感じられる。仮想世界においては時間も季節も思いのままだ。四季の移ろいが狂った昨今の日本ではなく、心地良い春の穏やかな日が永遠に続く。
さて、現実はどうだろう
築30年の8畳一間のリビング。水回りを中心にあちこちが痛みはじめ、床はギシギシとみっともない音を奏でる。インスタント珈琲も原材料と輸送コストの高騰を受け、ただでさえ薄いアメリカンが更に水っぽくなっている。目の前のテレビで流れるのは、ケチな国内旅番組。映し出されるのは地方の観光名所と言われたところだが、今や外国人観光客向けに再開発され、日本の原風景は失われている。娘は孫を連れて帰るどころか、都会の日々の暮らしに忙しく電話ひとつも掛かって来ない。デジタル化された家電機器の使い方を息子に尋ねようものなら、心許ない言葉を浴びせられるに決まっている。妻が作る食事はどんどん簡素化されて、素麺、うどん、そばのローテーション。それでもまだ食べられるだけ幸せだ。
“理想の家族”を可能にするのは、生成AIによる仮想世界の構成だ
夢物語だと思っていた世界が、今や日常的に当たり前になっている。実際、生成AIと人間をマッチングさせるアプリが存在し、仮想世界で結婚することも可能だ。そこには、ストレスがない。ユーザー(人)側の嗜好や反応に合わせてAIは受け答えしてくれる。否定されない受容される世界、意見の食い違いが招く衝突の無い世界。承認欲求は満たされ、やがて皆ゴーグルを脱げなくなる。いや、脱ぐ必要がない。“こちら”が現実になる。
これをロボット工学者の石黒浩は、「人間とAI・ロボットの境界は徐々に消え去り、人間は生物から無生物に至る」と書いている。人間社会とは何なのか?価値についてをきちんと自問自答していないと、やがて自我は気付かないうちに絡めとられる。🎥
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あいむすまいる!第91号 2025年9月7日発行
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